2墨

人は環境の生き物と言われます。
目にするもの、空間、生活の中で触れるあらゆるものに影響されて変化しています。生活をがらりと変えることは難しいけれど、今までとちょっと違うものに触れてみたら、ちょっとだけ何かが変えられるかもしれません。

その「何か」につながるきっかけの一つになるかもしれないと思い、書の世界のお話をしてみます。

いつも驚かされるのは、有名な書道家さんの長生きです。長生きなばかりではありません。生涯現役を実践されている方ばかりです。くよくよしている長生きさんというのは、あまり想像できませんから、是非秘密を知りたいと思いませんか?

まず、道具について見てみましょう。お習字はやったことがあるけれど、墨はすったことがないという方も今ではめずらしくありません。よい墨汁もたくさんありますから、恥ずかしがることはありませんが、墨には墨汁にはない良さがいっぱいです。

私の稽古部屋は、我が家の玄関からすぐの部屋なので、訪れた人に「わあ、いいにおい!」と喜ばれることがあります。私などは毎日のことで、気がつかないくらいあたり前になっている香りですが

「やっぱり落ち着くわね〜。」

と好評です。大家ともなれば、宝石のような価格の墨を使っていることも多く、まさに極上のアロマテラピーです。現在は、動物保護のために代用品しか使えませんが、少し前までは、麝香(じゃこう)が使われていました。贅沢ですね。

墨に必要な原料は、この香りのもとと、煤(すす)と膠(にかわ)の3つです。

煤は黒さのもと。何かを燃やすとできるあの煤です。

この煤をにかわで固めます。にかわがないと、紙に書いても紙に残ってくれません。にかわは、動物の皮や骨からできるたんぱく質。お肌をプルプルにしてくれるあのコラーゲンです。高濃度の某コラーゲン美容液が何年か前、とても流行ったことがありました。その時は、化粧品メーカーと原料の取り合いになって大変だった、という話を有名な墨屋さんがこぼしていました。

にかわも、よい墨には上質なものが使われます。毎日触れていると、知らず知らずに指先から吸収されているかもしれませんね。

お習字が苦手だったと言う人も、久しぶりに墨に触れてみませんか。
上手な字を書こうなんて身構えずに。

ただ墨を磨ってみる。

高い墨を買わなくても、磨る時間を楽しんでみる。

そんな気分だけでも、書道家さんの「秘密」に近づけてくれる気がします。

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【Kinkoちゃん随筆】 書家・美術家 金子祥代 https://www.kinkochan.com/
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