3 空

最後に空を見たのはいつですか。

子供の頃、空を見て、この空いっぱいに見えるくらい大きな足の人がいたら、自分は蟻みたいに小さくて、気づいてもらえないのかな、なんて想像したことがありました。

蟻っていつもこんな怖い思いをしてるのか

なんて想像したら、いやいや蟻どころじゃなくて、銀河系が細胞のひとつに過ぎないくらい大きい人がいたら、地球ですら、その中のミトコンドリアくらいの存在だったりして、いやいやまてよ、空の外にはもっと大きい世界があって、その外にはもっと大きい世界があって・・・・・・なんて、ずっとずっと想像していたことがありました。

そのあと、いつのまにか受験だとか、覚えなきゃならない仕事だとかに追われて
気がつけば見るのは机ばかり。そんなことをしていたことすら忘れてしまいました。

そうこうして大人になったある日、さすがになまってしまった体をどうにかしよう、と思い立ってウォーキングを始めました。
だいたい5キロを1時間くらいで歩くのですが、コースはどうしても住宅地がほとんどになってしまいます。
夜だから、植え込みの緑を楽しむでもなく、見えるものにあまり変化はありません。そんな中

毎日違った姿を見せてくれたのが月でした。

まだ暑いのに、色濃くなった月を見て秋が来ているのに気づいたり
ひときわ美しい月の日には足を止めて眺めたり
いつしか月を見るのがウォーキングの楽しみになっていました。

今どきなかなか電線なしの空は少ないけれど、両手でファインダーを作れば、そこに日本画で見るような月だけが浮かんでいます。絵の中の月なんて絵空事みたいで、本物に思えなかったけれど

美しい月は今もそこにある。

私が知らなかっただけなのか、とハッとしました。

書の作品作りでは、漢字なら漢詩、仮名なら和歌をよく素材にします。その詩や歌の中に月という字はとてもよく登場します。どれだけ多くの人が月を愛でていたかということです。なんだか、親しみを持って書けるようになってきました。

万葉人も同じ月を見ていたんだ・・・・・・

なんてまた子供の頃のように空想癖がうずうずし始めます。だとしたら、もっともっと昔、月の形から月という文字を作った古代人はどういう気持ちで眺めていたのかな・・・・・・。

たまには空を見上げてみませんか。

そして、雲の向こうに思いを馳せたり
良寛さんみたいに、青空に指で字を書いてみたら、さっきまで悩んでいたことすら忘れてしまうくらい楽しいかもしれませんよ。

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【Kinkoちゃん随筆】 書家・美術家 金子祥代 https://www.kinkochan.com/
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