7 金色の筆

金色の筆を見たことがありますか?

どこが金色かって?
筆管(持つところ)を塗ったものは、もしかするとどこかにあるのかもしれませんが、毛の方が金色になった筆はお店で見ることはできません。

書道の筆はイタチや馬や熊、豚、鶏、孔雀・・・私が持っているだけでもいろんな動物の毛からできています。
一般的に習い始めの人は兼毫筆と言って、硬い毛と柔らかい毛が混ざった書きやすいものを使うことが多いです。お習字セットに入っているのもそのタイプです。
が、私が一番たくさん持っているのは羊の毛の筆です。
羊毛の筆の毛は、お店で売っているときは真っ白です。
先ほど並べた色々な動物の毛の中でも一番柔らかいタイプのもので、慣れないと使いにくいですが、とても表情のある線を生んでくれるので創作をする人たちには人気があります。

その真っ白な毛が、たくさん稽古をしていると硯や紙にこすれてぴかぴかになり、飴のような色に輝いてくるのです。
そうなるともう、とても使い易い私だけの素晴しい筆になっています。
おろし立ての新しい筆の持つクセがとれた素直な毛が、思った通りの素晴しい線を生んでくれ、とても頼りがいのある筆になります。

子供の頃、筆の根本がかたまってしまってボサボサになったことがある人も多いのでは?
そうすると書きにくいから次を買う。
買ったばかりの時は楽しいけれど、またボサボサになって嫌になってくる。
道具は大事にしなければいけないのはわかっているのに、面倒くさくなって、つい繰り返してしまう。
色んなところで起きている光景だと思います。

でも、私は運よく、子供の頃にいい先生に出会ったので、早くから羊毛に触れる機会をもらい「新しい筆より長く使い込んだ筆の方がいいのだから大事にしなくてはいけない」と、大事にしなければいけない理由を教わることができました。

羊毛の筆は他の筆より気をつかって根元まで洗わないといけないのですが、いい筆になる日を思って一所懸命洗い続けました。

そして実際に何回もぴかぴかの毛に感動をもらいました。

先日、教室のお弟子さんたちが初めての羊毛に悪戦苦闘しているので、全く同じタイプのものがぴかぴかになった私の筆を見せてあげました。

こうなったら書き易いのですよ、と。

みんな同じ筆には見えないと驚いていたのですが、そこにいた書道の先輩が一番驚いてしまいました。
同じタイプの筆を使っているのに。キャリアは私よりずっと長いのに。こんな風になったことがないというのです。
それには逆に私が驚き、自分があたり前にしてきたこともあたり前ではないのだな、と思いました。そして、ますますこの金色の筆は、やはりなかなか他では手に入らない大事なものに思われました。

古いだけではダメなのです。

たくさん使い込んで大事にしなくては。

これって、「自分」にも言えると思いませんか。
店先に並んだ筆みたいに、今の私はほかの人と同じように見えるけれど、そこについた値札ではわからない価値が大事にしていたら生まれるんじゃないかって。
きっと、ただ大事にしたらいいんだと思うのです。

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【Kinkoちゃん随筆】 書家・美術家 金子祥代 https://www.kinkochan.com/
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