13 アンティーク

皆さんの家は新築ですか?
新しい家は気持ちがいいですね。
私も建てたことはありませんが、できたばかりのマンションに住んだことが何度かあります。

でも、いつも慣れるのに時間がかかりました。

ある時テレビで見たホテルがあまりにも素敵で、名前もわからないのにインターネットで探し当てて太平洋の向こうまで泊まりに行ったことがあります。

そこはもともとはお金持ちの豪邸で代々住んでいた人の集めた家具や調度品がそのまま使われているのが特徴でした。
個人宅ですから、一般のホテルと違って壁の色からファブリックまで全て部屋ごとに違います。
私が通された部屋もテレビで見た華やかな部屋ではなく、全く印象が違ったので普通ならがっかりしそうなところですが、荷物を片付けるまでの間にすっかり気に入ってしまいました。
まるでずっと前からここにいたかのように落ち着いたのです。
一週間後の去りがたい気持ちといったらありませんでした。

あの包容力はいったい何だったのでしょう。

やはり部屋を彩っていたひとつひとつの骨董の力だと思うのです。

骨董というのはただ古いという意味ではありません。
よいものが次から次へと受け継がれ、その時々の持ち主が大切にして次に伝えてきたものを言うのだと聞いたことがあります。
しまいこむのではなく、愛でながら大切に使ったその結果今も生きている、その尊さも含めての魅力なのだそうです。
そう思えば、あの部屋が居心地がいいのはあたり前だったのです。

といって、生まれながらに良いものに囲まれてきたお嬢様ならいざ知らず、普段の生活の中で突然骨董に囲まれて暮らすなんて難しいですよね。
私にもとてもできません。
でも仕事がら硯だけは古い物を手に入れました。
もちろん大切に使っています。

不思議なもので、使い始めた日から机に向かったときの、いえ、稽古部屋自体への思いも、もっと言うなら書への思いに至るまで、なんだか変わった気がするのです。

墨を磨る時も自然に背筋がのびて心が静まるし、洗ったあとのしっとりした肌触りにはいつも幸せな気持ちにしてもらっています。(余談ですが、良い硯はしっとりと肌に吸い付くのです。選ぶ時も手のひらで触ってみるのですよ)

100円ショップで何でもそろう時代です。
私自身もっと若くて何も知らなかった時には、使えればいいじゃないか、とか、似たようなものだし、なんて言い訳をして、よいものを知ろうともしなかった頃がありました。

でも、これからは少しずつ、ずっとそばにいてほっとさせてくれるものとの出会いが増えたらいいなあと思っています。

骨董なんて高くて高くて絶対無理!なんて声も聞こえてきそうですね。

大丈夫。無理をおすすめしているのではありません。

今古くなくたって、とても気に入ったものに出会えたら大事に大事に使ってみませんか。あなたが未来の骨董品の初代オーナーになるかもしれませんよ!

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【Kinkoちゃん随筆】 書家・美術家 金子祥代 https://www.kinkochan.com/
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