27 風

風という字は人気があるようです。
書道のサークルの展覧会などに行くと必ず書いている人がいます。
漢詩の中にも出てきますから、お勉強の中でも書く機会は随分あり、何度も字書で字形も調べて工夫しました。

でも、私の中では長い間「難しい字」、できれば避けたい字の一つでした。

難しくなかったとしても、みんなが書く字は書きたくない性分ですからわざわざ自分から書くことはなかったのです。

が、ある時、
「みんなが書くなら書けるようにはなっておかないと!
『書かない』ならいいけれども『書けない』では嫌だなあ」と思い、敢えて「風」の一文字作品に取り組んだことがありました。
有名な先生方の作品集には素敵な作品がいっぱいあって、私の風も作りたいなあと。

しかし書けないのです。毎日100種類作ろう!と取り組んでみたりもしましたがやっぱり書けません。
ちょっといいなと思っても、次の日に見たらどうにも嫌な気分になる作品ばかりなのです。
あんまり書けないのでいい加減なんでこんな字を書かなきゃいけないんだ!と放りだしてしまいました。

しばらくしてから挑戦してもまた挫折。
また放り出してしばらくたったら挑戦してまた挫折。

もうやめようかなあ、と思っていた時、ふと、風って何なのかなあ、と思いました。

風。
風なんて洗濯物は速く乾くかもしれないけど、強すぎたら外に干せないし、髪の毛をきれいにセットした日に限って乱されるし、地下鉄の階段ではスカートをまくってしまうし、傘をダメにされたこともあるし、傘がベランダから飛んでいってしまったこともあるなあ。
夜中にゴウゴウ鳴ったら眠れないし、スキマ風は寒いし。
寒くなくたって春や夏の風も本のページをめくってしまったりメモが飛んでしまったり、目にホコリがはいることもあるし。
あー嫌い。どうしてみんな「風」なんて飾りたがるの?

風、風、風。 風って何なの?

今度は毎日毎日頭の中に「風って何?」がこだまします。

風って何なのでしょう。

「風を感じる」とか「風を入れる」「風が薫る」
こんな時の風は髪の毛を乱したりしない気がします。

どうして髪が乱れないのかな。

風。風が吹いていないから。少なくとも「風を感じる」とか「風を入れる」とかいう時には風は動いていなくてもいいのです。

止まっているわけではないけれども目に見えるほど動いている必要はないのです。
澱んでいない新しい空気。
そんな空気を気持ちよく感じることができる自分の状態。
気づくことのできる自分。そんなことが気持ちよいのかもしれません。

それに気がついた時、ああ、風か。
風を感じられる今日はシアワセだな。
風を感じられる暮らしがしたいな、そんな風に思いました。

そしてほんの少し、ほんの一歩足を動かしただけでも空気は少し動くのだ。そんなことも。

そんなことを思う時、あたりの空気は明るく感じられます。

だからみんな「風」が好きなのか。
すごいなあ、みんな知っていたんだ。そんなことに驚いたりしました。

そして遅ればせながら風が好きになった私は、少しシアワセになった気がしました。

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【Kinkoちゃん随筆】 書家・美術家 金子祥代 https://www.kinkochan.com/
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