紅の文字を見ると思いだす色があります。
赤でも朱でも紅梅の花の色でも紅花の作る色でもなく、それは透き通ったオレンジ色でした。
私は結局大学にもなんとなく行ったし、今でも勉強は好きですが、勉強の事始め、小学校1年生の時は勉強どころか授業が何をするものかもわからずに椅子に座っていました。
椅子に座っていられればまだまし。
たまらなくなった揚げ句にとうとう頭が痛くなってきて保健室に行かせてもらったこともしばしば。
勇気をふりしぼって教壇に行き
「頭が痛い・・・」
と言うと、無造作な短髪で化粧っけのない、いつも体操着のような服の女の先生が
「また?」
と怖い顔。
そしてまた次のジュギョウが苦行になるのでした。
もちろん生まれて初めてもらった通知表といえば、中身は全く覚えていません(通知票がなんだかわからなかったからです)。
ただ両親が額を寄せてぼそぼそ落胆の声で話し合っていた光景をはっきりと覚えています。
それが化けたのが翌年。
新しい担任の先生は大学を出たばかりの女の先生でした。
髪にはきれいにパーマがかかり、毎日ブラウスにひらりとしたスカートをはいたおしゃれな先生が私は一目で好きになりました。
どの子に対してもわけへだてなく接してくれた人柄に加え、振り返れば授業も上手だったのだと思います。
でも、何より私の目を捉えたのが先生のお化粧でした。
PTAのお母さんたちからは「化粧が濃い」なんてひがんだ声が聞こえたりしましたが、幼い私は授業の間中うっとりとしていたのでした。
もっと正確に言うと、先生の頬に乗った美しいオレンジを見ていたのです。
その色はどこから始まったのかわからないようにふわりと乗っていて、しかも白い肌が透けて見えるようなのでした。
それが美しくて不思議でずっと目で追ってしまうのです。
色をつけるといったらクレヨンか水彩絵の具しか知らない子供には「どうしたらあんな色の塗り方ができるのだろう?」と不思議で仕方がないのです。
その話をした時「あれは頬紅というのだ」と教えられ「べに」という言葉と出会いました。
その美しい頬紅のおかげで、気づけば生まれて初めての皆勤を達成。
通知表は「オール『大変よくできました』」。なんという変化でしょう!
メイクアップでいかに「自分」を美しく「見せるか」。
コンプレックスを隠すテクニックを研究している女性が今ほど多い時代はないでしょう。
でも私が「お化粧」ということを思う時
思い出すのは先生にみとれていた幼い私。
「見る人」にとって意味がある、と思わずにいられないのです。
★今回の書作品:「紅」
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