Kinkoちゃん随筆

書に遊ぶKinkoちゃんの気ままな日常 ・・・現代アートから海外情報、最近なぜか少年隊まで⁈なブログ

心の相談室

心のバックナンバー:「心の相談室」&「毎日キレイ」 もくじ

ちょうど「インクの魔法」を出版したころ、大手薬局チェーンのホームページに連載が始まりました。

とても充実したホームページで、お客さんや薬について知りたい人への情報とともに、各店舗で働く薬剤師さん向けのコーナーがありました。毎日忙しい薬剤師さんたちにほっとするひとときをあげたいという社長さんの要望で、まったく職種の違う4人の女性が寄稿することになりました。それが「心の相談室」
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なんだか駆け込み寺みたいな名前ですが、悩み事相談をするのではなく気軽に読めるエッセイ集です。
薬局さんのホームページ刷新まで5年以上続いていました。

今見返すと自分でも「青いな」と照れ臭いところも多いですが、薬剤師さんを思い浮かべながら書いた日々もなつかしく、ここにまとめることにしました。どなたかの心に届くことを祈って並べてみます。ご覧ください。


キレイのバックナンバーも追加しました。
毎日新聞WEB「毎日キレイ」キレイナビゲーターとして書いていたものです。

目次



【Kinkoちゃん随筆】 書家・美術家 金子祥代 https://www.kinkochan.com/
長年古典で培った書の力をベースに世界各地で現代アートの世界を展開中
インスタはこちら☆https://www.instagram.com/sachiyo.kaneko/

心のバックナンバー1:ほほえみ

1ほほえみ


私は7歳で書道を始めましたが、もちろんその頃はそれを仕事にするなんて考えてもいませんでした。

他の子のように「パイロットになりたい」とか

「歌手になりたい」とか

イメージすることすらできないおっとりした子供だったのです。でも幼稚園でも小学校でも「何になりたいか」聞かれることは多いもの。その度に困って、隣の席の子をまねてお嫁さんの絵を描いたりしていました。

そんな私が初めて口にしたなりたい職業が「薬剤師」でした。

といっても、それも受け売りで、きれいな仕事だし、女の人がずっと働ける仕事として周りの大人が強く勧めたからに過ぎません。
それも算数が得意だから理系だ、だったら薬剤師だ、みたいな荒っぽいお話です。
でも、勧められた私としては真剣に興味を持つわけです。それで、近所の薬屋さんの白衣の女の先生を興味を持ってながめたりしていました。

その大ベテランのセンセイのイメージそのままに
「頭がよさそうで、やさしそうな理想の大人」

「人の役に立つ立派な仕事」

とすっかりその気になって、カウンターに置いてある高そうな天秤があこがれの象徴のようになりました。

ところが、どこにでも意地悪な子というのはいるもの。せっかく初めての夢を口にした私にこう吹き込むのです。

「怖いよお。お薬っていうのはコンマ何グラムの世界なんだよ。ちょっと手が揺れて多く入れちゃったりしたら命にかかわるんだよお。昔あのお店でこんなことがあったらしくてさあ・・・」

とまことしやかに怖い話を・・・。
案の定、気の弱かった私は震え上がり、「私にはできない・・・」とあきらめたのでした。

もちろん今思えば随分まゆつばな話だったのですが、お薬というのはとても大切なもので、お薬を調合するというのは失敗を許されない責任の重い仕事だということは事実でしょう。子供の想像できる範囲では、その責任ばかりが大きく膨れ上がってしまって、怖くなりましたが、おかげで命というものを真剣に考えた初めての機会になりました。

もう昔のように手で天秤で量ることはほとんどないのかもしれません。
でも、薬剤師さんが大切な仕事をしているということは今も変わらないと思います。多くの人が、わからない体の問題を抱えて、不安になり、専門家の薬剤師さんたちに接するだけでちょっと楽になったりもしているんだと思います。それは、白衣のセンセイに憧れていた小さい私と同じような気持ちで、すっかり信頼して頼ってしまうのではないでしょうか。そのホッとする気持ちが薬よりもいい薬になっていることも多いのでしょうね。

でも、いくら患者さんが笑顔を求めてやってきても、薬剤師さんたちだって、疲れていたり悩んでいたりすることがあるでしょう。それでも笑顔でお店に立たなければいけないということはとても大変なことだと思います。そんなみなさんが、仕事をはなれてちょっとだけホッとできる時間を持っていただけるなら、本当に嬉しいと思います。
補足:「心の相談室」はもともと調剤薬局さんのホームページで薬剤師さんのために書き下ろしたものです。
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心のバックナンバー2:墨

2墨


人は環境の生き物と言われます。
目にするもの、空間、生活の中で触れるあらゆるものに影響されて変化しています。生活をがらりと変えることは難しいけれど、今までとちょっと違うものに触れてみたら、ちょっとだけ何かが変えられるかもしれません。

その「何か」につながるきっかけの一つになるかもしれないと思い、書の世界のお話をしてみます。

いつも驚かされるのは、有名な書道家さんの長生きです。長生きなばかりではありません。生涯現役を実践されている方ばかりです。くよくよしている長生きさんというのは、あまり想像できませんから、是非秘密を知りたいと思いませんか?

まず、道具について見てみましょう。お習字はやったことがあるけれど、墨はすったことがないという方も今ではめずらしくありません。よい墨汁もたくさんありますから、恥ずかしがることはありませんが、墨には墨汁にはない良さがいっぱいです。

私の稽古部屋は、我が家の玄関からすぐの部屋なので、訪れた人に「わあ、いいにおい!」と喜ばれることがあります。私などは毎日のことで、気がつかないくらいあたり前になっている香りですが

「やっぱり落ち着くわね〜。」

と好評です。大家ともなれば、宝石のような価格の墨を使っていることも多く、まさに極上のアロマテラピーです。現在は、動物保護のために代用品しか使えませんが、少し前までは、麝香(じゃこう)が使われていました。贅沢ですね。

墨に必要な原料は、この香りのもとと、煤(すす)と膠(にかわ)の3つです。

煤は黒さのもと。何かを燃やすとできるあの煤です。

この煤をにかわで固めます。にかわがないと、紙に書いても紙に残ってくれません。にかわは、動物の皮や骨からできるたんぱく質。お肌をプルプルにしてくれるあのコラーゲンです。高濃度の某コラーゲン美容液が何年か前、とても流行ったことがありました。その時は、化粧品メーカーと原料の取り合いになって大変だった、という話を有名な墨屋さんがこぼしていました。

にかわも、よい墨には上質なものが使われます。毎日触れていると、知らず知らずに指先から吸収されているかもしれませんね。

お習字が苦手だったと言う人も、久しぶりに墨に触れてみませんか。
上手な字を書こうなんて身構えずに。

ただ墨を磨ってみる。

高い墨を買わなくても、磨る時間を楽しんでみる。

そんな気分だけでも、書道家さんの「秘密」に近づけてくれる気がします。

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心のバックナンバー3:空

3 空

最後に空を見たのはいつですか。

子供の頃、空を見て、この空いっぱいに見えるくらい大きな足の人がいたら、自分は蟻みたいに小さくて、気づいてもらえないのかな、なんて想像したことがありました。

蟻っていつもこんな怖い思いをしてるのか

なんて想像したら、いやいや蟻どころじゃなくて、銀河系が細胞のひとつに過ぎないくらい大きい人がいたら、地球ですら、その中のミトコンドリアくらいの存在だったりして、いやいやまてよ、空の外にはもっと大きい世界があって、その外にはもっと大きい世界があって・・・・・・なんて、ずっとずっと想像していたことがありました。

そのあと、いつのまにか受験だとか、覚えなきゃならない仕事だとかに追われて
気がつけば見るのは机ばかり。そんなことをしていたことすら忘れてしまいました。

そうこうして大人になったある日、さすがになまってしまった体をどうにかしよう、と思い立ってウォーキングを始めました。
だいたい5キロを1時間くらいで歩くのですが、コースはどうしても住宅地がほとんどになってしまいます。
夜だから、植え込みの緑を楽しむでもなく、見えるものにあまり変化はありません。そんな中

毎日違った姿を見せてくれたのが月でした。

まだ暑いのに、色濃くなった月を見て秋が来ているのに気づいたり
ひときわ美しい月の日には足を止めて眺めたり
いつしか月を見るのがウォーキングの楽しみになっていました。

今どきなかなか電線なしの空は少ないけれど、両手でファインダーを作れば、そこに日本画で見るような月だけが浮かんでいます。絵の中の月なんて絵空事みたいで、本物に思えなかったけれど

美しい月は今もそこにある。

私が知らなかっただけなのか、とハッとしました。

書の作品作りでは、漢字なら漢詩、仮名なら和歌をよく素材にします。その詩や歌の中に月という字はとてもよく登場します。どれだけ多くの人が月を愛でていたかということです。なんだか、親しみを持って書けるようになってきました。

万葉人も同じ月を見ていたんだ・・・・・・

なんてまた子供の頃のように空想癖がうずうずし始めます。だとしたら、もっともっと昔、月の形から月という文字を作った古代人はどういう気持ちで眺めていたのかな・・・・・・。

たまには空を見上げてみませんか。

そして、雲の向こうに思いを馳せたり
良寛さんみたいに、青空に指で字を書いてみたら、さっきまで悩んでいたことすら忘れてしまうくらい楽しいかもしれませんよ。

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心のバックナンバー4:インテリア

4 インテリア

私が初めてテレビ出演したのは韓国です。CMでも有名な大手英会話学校の西日本代表として、韓国での英会話のコンテストに招待されたときのことです。

行ってビックリ。

ケーブルテレビではありますが、大会の模様がすべて
韓国全土に放送されました。

優勝するとアメリカ短期留学という副賞つきで、韓国では有名らしく、その日のために新調した服を着て参加するといった気合いのいれようです。

「出るのが夢だった」

と言う若者たちが何年も準備して選抜されているのです。レベルも高く立派な大会でした。

そんな大会とも知らず、旅行気分で、のほほんと参加した私が入賞するはずもなく、韓国全土にかっこ悪い姿を放送されてしまいました。

この大会では、ステージにNHKの外国語講座に出てくるスキットの時のようなセットが用意されていて、ネイティブの先生と対話して、その出来を競います。
ただし、どの先生と当たるか、先生と何を話すかは、セットに入るまでわかりません。
そこで渡されたメモに個別の場面設定とテーマが与えられていて、一分くらい考えたら話を切り出します。
先生がどう反応するかもすべてアドリブ。
こまかい文法のテストを受けたりするわけではないので、力のない私にはむしろ好ましいタイプの競争だと思ったのですが・・・。

テーマのメモを見て頭が真っ白になりました。

「ここはインテリアコーディネーターの事務所です。あなたは、依頼していたインテリアの仕上がりに満足していません。」

インテリアってナンだろう?

転勤族の真っ最中だった私はいつでも引っ越せるよう、インテリアに興味を持つことを避けていました。
そもそも「インテリア」という言葉が何を意味するのかすら、いまひとつピンとこないくらいに興味がありませんでした。
何について話したらいいのか、全くイメージが湧かない。
開始の合図が鳴ったのに空白の時間ができてしまって先生にうながされる始末でした。その後のむりやりな会話といったら・・・今思い出しても冷や汗がでます。

それから10年たち、マンションを購入して初めてきちんとインテリアについて考えるようになりました。
壁を塗ったり、アンティーク家具を探したり
少しずつ空間を好きな世界に近づけています。

もしかすると、他の人より楽しんでいるかもしれません。

そして今、どうして私は、あの時、書の話ができなかったんだろうと悔やまれるのです。
当時、我が家の壁を彩っていたものは額に入った師匠の作品だけだったのですから。

書の話だったらネイティブの先生が知らないことを色々話せたのに。
たくさん質問してもらえたのに。

今はもちろん、玄関や床の間に、季節ごと、あるいは気分で、いろいろな掛け軸や額を飾って楽しんでいます。
気分を奮い立たせたいときにはこの軸、しっとり落ち着きたいからこの軸といった具合に。

ひとつインテリアを変えただけで、すごく新鮮な気分になれます。

インテリアと考えたとき、書はいろいろな可能性を持っていて
何ができるかなあ、何を書こう、どう飾ろう
と、楽しみはつきません。

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心のバックナンバー5:書を飾る

5 書を飾る

書を飾るというと、花まるのお習字を壁に貼ったのをイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、お習字の思い出はちょっと忘れてみましょう。

「書」というときは
作品として美しいなあとか何か心が動くなあとか
そういう芸術だったりアートだったりを意味しています。

そう言ってもまだいろいろな声が聞こえてきそうですね。
「書を飾るというと白い紙に黒い字だけで地味」とか
「読めない字が書いてあって楽しくない」とか
「野太い字で「無」とか書いてあっても強くてリラックスできない」とか

苦手意識を持っている方が多くいらっしゃるようです。時代劇のイメージのままなのでしょうか。

でも、モノトーンの家具は大人気です。
ファッションでも、白と黒はかっこいいイメージですね

そう。インテリアとして、書も、白と黒だからこそ無限の楽しみがあるのです。

ちょっとイメージしてみてください。

スモーキーな赤と朱のような赤。同じ赤でも全然合いません。
色を組み合わせるのは意外に難しいものです。
違う色でも明るさが同じだったらぴったりきたり、反対色を並べたらきつすぎたり、とても難しい。

でも、白と黒に合わない色はありません。

自分の感性で、その時の自分にビビッとくる色の額に入れて飾ればよいのです。
何年かたって額だけ変えることもできます。
額の色選びが難しければ、モノトーンの額にしたり、色がないフレームにいれたら究極のシンプル。かっこいい空間が作れます。
逆に昔の貴族のように豪華絢爛に演出することもできます。
色んな色を使った絵では、こんな着せ替えはできません。

「インクの魔法」が出てすぐのこと、古い友人から素敵な手紙をもらいました。
出会ったのは小学校ですから、古い古い友人ですが、私が当時から書を続けているのは知っていても、書作品というものに触れる機会は今までにあまりなく
「インクの魔法」を買ってみたはいいけれど「自分にわかるのかな」と不安だったそうです。

でも、読み終わって(作品と一緒に4つの物語がおさめられている)

この本を飾っておこう!と思ったそうです。そこで「どこを開いてどこに置こう」と色々置いて試してみたら
どの作品もどこにでも合うので驚いた
というのです。
友人が本を気に入ってくれたことはもちろん、こんな発見をして知らせてくれたことは大変な嬉しさでした。

そう。最初から額に入れなくてもいい。
本の表紙でもポストカード一枚でもいいではありませんか。
こうして気軽に「飾る」ということをしてみてはいかがでしょうか。
そんなことは普段から好き!という方は
是非墨の作品にも挑戦してみてください。

どんなにちっちゃいピアスでも一日の気分を変えてくれるように、お部屋のおしゃれもきっと楽しいはず。部屋が居心地よくなったら、きっと明日もがんばろう!と思えます、ね。

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心のバックナンバー6:アンチエイジング

6 アンチエイジング

アンチエイジングという言葉が大流行です。
かくいう私も人の子。少しでも若くありたいと、パックをしたり、人並みに悪あがきをしています・・・。

でも、老いることって悪いことばかりなんでしょうか。

あるとき、初めて出た合宿で、高齢の先生が私の書いているところを通りかかって、反故の切れ端に「こうだよ」と一文字書いてくださいました。

その字の若くて生き生きと力強かったこと。

うまいとかなんとかいう表現ではなくて「やられたーっ!」と頭にガツンときました。

実力は追いつかなくても若さと元気だけは負けないと思っていた自信なんてどこかへ吹き飛び

今まで若さと思っていたものは
一体何なんだったのだろう
 と土台から揺すぶられました。

今でもあの感動は忘れられません。もちろん、ただの高齢者ではなくて、研鑽を積んだ一流の先生で、先生と言葉を交わせるようなご縁ができたのは、それからさらに何年もたってからという立派な先生だからこそなのは言うまでもありませんが。

好きな作家の展覧会、特に物故作家の展覧会で、その人の若いときから晩年までの作品がずらりと並ぶことがあります。
ある時、大好きな日本画家の作品が年代順に並べられているのを見ていてハッとしました。

60歳を越えたくらいの作品が一番若々しく、それからどんどん自由になっていくように感じたからです。

なんだか一般的にイメージされている「老い」とは全く反対の印象です。
その境地にあこがれを感じました。

私もこんな風になれるんだろうか。なりたい。と。

まだまだそんなに素晴しい作品は書けませんが
自分の人生を思ってみると今が一番楽しい。
20代の頃、こんな思いで今の年齢を生きていることは想像もできませんでした。
でも、あの頃の私より、今の私の方が毎日を楽しんでいるし
ちょっと短くなったのに、未来への希望も何倍も持っているのです。
これはどういうことでしょう。

自由だからだと思います。
それは、お金がたくさんあるとか、義務や責任がないとか言うことではありません。

心の自由です。

女だからこうしなくては、とか、もう何歳だからこれは無理とか、こんなことしたら笑われる、とか、20代の私が怖がっていたものが、今の私には全然ないのです。

これは年をとった開き直りと笑う人もいるかもしれないけれど、開き直りというのではない。
気にしないのではなくて、そんな考えが浮かんで来ないのですから。
それは、怖がっていたものが、実はどんなに実体のない、いい加減なものかがわかったからで、年を重ねたからこその経験則です。
今は、この先の自分がどうなっているのか楽しみでワクワクしています。

「年をとる」ということを怖がることはストレスです。

毎日の色が変わってしまいます。

そんなことより今をちょっとでも楽しみましょう。
楽しいのだったらアンチエイジングの何かだって毎日のイベントのひとつです。

どうしてもピンと来ない方は、元気な年上の方と一日でも早く出会えることをお祈りします。
百聞は一見にしかず。エネルギーや希望をいっぱいくれるはずです。

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心のバックナンバー7:若い

8 若い

前回アンチエイジングについて書きましたが、私が書道を続けていたことで
ひとつ大きなメリットがあったと思います。2つかな。

ひとつは、いつまでも若いこと。

今でも色んな場面で「若いから楽しみね」とかいう言葉をかけていただきます。
あくまでも、書道関係者からですが。
というのも、書道界というのは年齢層が高いのです。
スポーツみたいに引退がありませんから、いつまでも皆さんチャレンジャーとして関わっています。

60代の先生方が若手働き盛りと呼ばれる世界ですから
確かに「そこで」私は若いのです。
でも、この勘違いは気分を若く保つのには便利ですよね。
もう遅い・・・なんて弱気にはなりにくいからです。

高校や大学のクラス会などをすると、ある時期から急にみんなの名刺に肩書きがつき始めました。
男子などは特に急に顔つきが締まってきたりして「大人になったんだなあ」と思わされたり。
女子も仕事を続けている人は同様に責任ある地位についている。

いつのまにかそんな年になったのか。と感じると同時に

私だけなんにもないなあ

とさびしい気持ちになったこともありました。
でもそれは一時期のこと。演じる役がないことは気楽だな、と思うようになりました。

そうなんです。役割は人を作るのです。いい意味でも悪い意味でも。

もし、今、仕事の役割が重く感じられる方がいらしたら、一度その荷物を降ろしてみることをおすすめします。
仕事を辞めなさいなんて言っているのではありませんよ!

習う側として、教える側として、私のスケジュールにはずっと書道教室がありました。
年齢も立場も違ういろんな人に会える場所です。
そこには色んな肩書きの方が集まっています。でも、そんなものは教室では関係ありません。
社長さんが一番新米で、一所懸命汗を書きながら一本線ばかり書いているのを、小学生が先輩として手助けしたりすることがあるのです。
そのときの社長さんは子供の顔です。
だから教室でお稽古している人、特に大人たちはみんな純粋に楽しそうだし、若々しいと思います。

もちろん書道でなくてもかまいません。
小さい頃に好きだったことや、やってみたいなあと思いながらやれないでいたこと。
そこに足を運んでみてはいかがでしょうか。
小学校にあがった頃、何もかもが新しくて一所懸命だったときの自分、そんな気分にかえってみるのはとても楽しいと思います。

資格をとろう!とかプロになろう!なんて意気込まずに、まずは純粋に楽しむことを思い出したいですね。そうしたら「重いなあ」と思っていた荷物も軽くなるかもしれないし、もしかしたら新しい背負い方をみつけるかもしれません。

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心のバックナンバー8:金色の筆

7 金色の筆

金色の筆を見たことがありますか?

どこが金色かって?
筆管(持つところ)を塗ったものは、もしかするとどこかにあるのかもしれませんが、毛の方が金色になった筆はお店で見ることはできません。

書道の筆はイタチや馬や熊、豚、鶏、孔雀・・・私が持っているだけでもいろんな動物の毛からできています。
一般的に習い始めの人は兼毫筆と言って、硬い毛と柔らかい毛が混ざった書きやすいものを使うことが多いです。お習字セットに入っているのもそのタイプです。
が、私が一番たくさん持っているのは羊の毛の筆です。
羊毛の筆の毛は、お店で売っているときは真っ白です。
先ほど並べた色々な動物の毛の中でも一番柔らかいタイプのもので、慣れないと使いにくいですが、とても表情のある線を生んでくれるので創作をする人たちには人気があります。

その真っ白な毛が、たくさん稽古をしていると硯や紙にこすれてぴかぴかになり、飴のような色に輝いてくるのです。
そうなるともう、とても使い易い私だけの素晴しい筆になっています。
おろし立ての新しい筆の持つクセがとれた素直な毛が、思った通りの素晴しい線を生んでくれ、とても頼りがいのある筆になります。

子供の頃、筆の根本がかたまってしまってボサボサになったことがある人も多いのでは?
そうすると書きにくいから次を買う。
買ったばかりの時は楽しいけれど、またボサボサになって嫌になってくる。
道具は大事にしなければいけないのはわかっているのに、面倒くさくなって、つい繰り返してしまう。
色んなところで起きている光景だと思います。

でも、私は運よく、子供の頃にいい先生に出会ったので、早くから羊毛に触れる機会をもらい「新しい筆より長く使い込んだ筆の方がいいのだから大事にしなくてはいけない」と、大事にしなければいけない理由を教わることができました。

羊毛の筆は他の筆より気をつかって根元まで洗わないといけないのですが、いい筆になる日を思って一所懸命洗い続けました。

そして実際に何回もぴかぴかの毛に感動をもらいました。

先日、教室のお弟子さんたちが初めての羊毛に悪戦苦闘しているので、全く同じタイプのものがぴかぴかになった私の筆を見せてあげました。

こうなったら書き易いのですよ、と。

みんな同じ筆には見えないと驚いていたのですが、そこにいた書道の先輩が一番驚いてしまいました。
同じタイプの筆を使っているのに。キャリアは私よりずっと長いのに。こんな風になったことがないというのです。
それには逆に私が驚き、自分があたり前にしてきたこともあたり前ではないのだな、と思いました。そして、ますますこの金色の筆は、やはりなかなか他では手に入らない大事なものに思われました。

古いだけではダメなのです。

たくさん使い込んで大事にしなくては。

これって、「自分」にも言えると思いませんか。
店先に並んだ筆みたいに、今の私はほかの人と同じように見えるけれど、そこについた値札ではわからない価値が大事にしていたら生まれるんじゃないかって。
きっと、ただ大事にしたらいいんだと思うのです。

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心のバックナンバー9:旅

9 旅

旅が好きです。
国内でも海外でもできるだけたくさん行きたいな、と思いますが
条件はスケジュールのない旅です。

国内なら、遠くに行かなくてもただお気に入りのホテルにこもるのでもいい。
海外旅行の場合も周遊ではなくて、お気に入りの街を決めたら、一箇所でのんびり過ごすのが私のスタイルです。

ホテルに着いたらまず、引き出しに服を入れるところから始まります。
ちょっとの間ここに住むという感じなのです。

ある時

「今までで一番幸せだった時間」

というのを考えてみたことがありました。
その時思い出したのはメキシコのホテルで庭に面した廊下のベンチに座って読書をしていた時のことでした。

そんなのは旅と呼ばないという人もいるかもしれません。

でも私にとって旅というのは、きっと白紙のスケジュールのことを言うのだと思います。

日常からの解放。
電話も手紙も来ない。約束も締め切りもない状態。知っている人もいなくて「私らしさ」からも解放されること。
わざわざ別の人格を演じるような疲れることはしませんが、私を知る人がいないところでは、だれも私を評価しないし、風景の一部としていい意味で無視してもらえる自由があります。

私の普段の生活も、ほとんど家の中で一人で過ごし、気が向いた時に気が向いただけ稽古をしたり、作品を作ったり、あるいは読書をしていることが多いのですが、日によっては家の片付けに終始したり、窓から外をながめたり、他の人から見たら自由そのもの、旅に出る必要なんてないじゃないかと言われそうなものですが、やっぱり旅に出たいなあと思いを馳せることがしばしばなのです。

帰ってきたときには、いい家だなあってホッとするのですけどね。

いくら自由に見えても生活の中には色々な決まりごとや気がかりはつきものです。
気が向かないから後でやろうと思っても、頭の中から完全に追い払うことなんてできません。そして、それが積もってくればもう完全にストレス。
ストレス、と気づけばまだいいですが、その手前の小さな塵が心をもやもやさせることも多いですよね。
本気で全部片付けようと思えば疲れてしまうし、やってもやらなくてもやっぱり大変です。

だから旅に出るのではないでしょうか。

「できない」状態になってしまえば、「やらなくちゃ」から解放されますから。

メキシコでの読書がなぜ幸せだったかと言えば、きっと、まったく純粋に楽しめたからだと思います。

風の肌触りだけを感じて純粋に。

本の内容の問題ではなくて、今どこにいるのかも、時間もすべて忘れてそこにいることを楽しむことができたのです。

なかなかこんなからっぽの状態は日常の中では作れません。

もし、疲れちゃったなあ、という方がいらしたら旅をおすすめします。
たくさんお金をかけたり遠くへ行く必要はありません。
ケータイを置いて一日ちょっと遠くまで散歩するだけでもいいのかもしれません。
いつも追いかけられているものから逃げて、からっぽになってみましょう。
思いっきり休んだ心はきっと何か新しいものにきづかせてくれると思います。
我が家がいつもより素敵に見えるだけでもちょっと幸せだと思いませんか?

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