なんだか最近不思議な出来事が続く。

こないだは不気味な悲鳴で眠れなかった。

日も暮れて夕飯時も終わり、人々が寝静まろうかという頃。

外が何やら騒がしい。

この家は京都のうなぎの寝床のような造りなので、街の中心部にありながら、
一番奥にある寝室には週末でも喧騒は一切聞こえてこない。
夜これだけ音に悩まされない環境は生まれて初めてと言える。

なのに今日は悲痛な声と、時々男性の怒声のようなものが・・・

はっきりとは聞こえないながら、
声が近いので表とは思えず、恐る恐る中庭を見る。
が、誰もいない。
それどころか、今日はどの階の窓にも電気がなく、開いている窓すらない。

ではこの建物ではなく
表で何か起きているの???

逆に怖くて表の雨戸を開けて外を見る気になれず布団をかぶる。

でも、12時をまわってしばらくたって
また始まった。
女の人の悲鳴のよう。それも耳をつんざくようなのじゃなくて、もっと苦しそうな・・・

それが続く。

ここまで平和な空気しか感じてこなかったマドリッドではあるが、
やっぱりきれいごとだけじゃないのか?
こんな奥まで聞こえてくるとはちょっとやそっとの事件じゃないぞ?

なんだか犯罪の光景しか浮かんでこなくてまんじりともしないまま夜が明けてしまった。

翌日。
大家さんも何も言ってこないし、
街の様子はいたって普通。

とりあえずぐるっと散歩してもどってくると、
3階に住むおじいさんが大荷物を抱えてドアで苦戦していた。
ドアを押さえていたら、すぐエレベーターが来たので私は階段で上がろうとすると、
「ありがとう。」
と荷物を入れ始めた、が、
「あ、そうだ!」
私に言っているとは思わず上がっていると
「ちょっと聞いて!」
と言うので降りてみると
「うちのさ、犬がさ、朝からずっと、くうううううううんって・・・」

と始まる。
くううううん?何、日本によくいるペット溺愛者みたいにペットのろけを聞かされんの?
興味ないんですけど。

あ。

え?

えええええ?!

あれは、くううううん、なんてかわいいもんじゃなかったけどね。
「ああ、おたくの犬?ゆうべの」
と返してみた。

すると
「やっぱ君んとこまで聞こえるくらいかあ。
すまん。でっかい奴なんでねえ。それが走らせても何してもおさまんなくて
うんぬんかんぬん・・・」

というわけで、事件でもなんでもなかったことはわかって安心だったのだけれども。

それまでも、このおじいさんとは玄関ロビーで何度も遭遇していたけどいつも一人だし、
なんせ今まで一回も犬の声なんて聞こえてこなかったので、
どうやら飼い始めたところらしい。

それがはっきりしたのはさらに翌日の朝。

土曜だというのに朝っぱらから女の人がものすごく大きい声で怒鳴っている。
それと前後してドドドドドドっていう足音。

それが何時間も続く。

時々Stop!とか英語が聞こえてきて、どうやら犬のしつけの先生を呼んで
「家の中で」
訓練しているらしいのがわかった。

訓練中は部屋の窓をあっちもこっちも大開放してやってる。
窓は全部中庭に面しているからつつぬけです。

この先生の声だったら悲鳴の方がよかったよお(涙)
なんで犬の指導は英語なんだ?
文句とか命令とかの英語ってどうしてこんなにきつく聞こえるんだろう。
神経に障る。

それからも何日も指導が続いてた。

考えてみると犬はいくら大きくたって
小さい子供みたいにドタドタした足音たてないじゃない?
靴も履いてないしねえ。
ってことは聞こえてきた足音は先生じゃん。
ううう、ひどい。

しかもだ。

こないだ窓をあけたら、
私の部屋の窓の外、窓枠っていうかなんていうか、
窓開けたすぐんとこ、
そこに包装のビニールと網がくっついたままの、
ほぼ齧りおわったサラミのはじっこが落ちてた。

これも、ここまでの流れがなくて突然遭遇したら驚いただろうな。
こんなあり得ない場所にあり得ないものが。

って、
上に犬がいたってあり得ないんだけどさ。

  ?
  ??

ドタバタしたわりに、
今日も奴はくううううううん。って続けてる。


書道家 金子祥代 Kinkoちゃん随筆 
http://www.kinkochan.com/
長年古典で培った書の力をベースに現代に通じるアートの世界を展開中